続・六畳間奮闘記

男には自分の世界がある。例えるなら空をかける、ひとすじの流れ星

beat less (上) ちょっと頭整理します

  
  その笑顔を僕は信じる。君に魂がなかったとしてもーーー。

この文言から始まるbea tless上巻。作者はお馴染み長谷敏司さんだ。題して、ヒトとモノのボーイミーツガール。SFとボーイミーツガールなんて、とても素敵な取り合わせだとおもう。

舞台は、AIが高度に発達した100年後の世界。社会のほとんどををhIEと呼ばれる人型アンドロイドに任せるこの世界で、ついに人工知能は人類の知能を超えた。そしてこの超高度AIは、人類未踏産物<レッドボックス>と呼ばれる5機のhIEを作り出した。この物語は、そのうちの一機<レイシア>と主人公の遠藤アラトが出会うことによって始まる。

この本の面白いところは、ヒトとモノの関係を突き詰めていったうえでボーイミーツガールを描いているところだ。もちろん世界観の作りこみは長谷さんの18番なので素晴らしいの一言なだが、何が面白いのかと問われれば、こう答えることになるだろう。作中では、レイシアが彼女をヒト扱いしてしまうアラトに対して、度々「私はモノです。私に、魂はありません」と言って彼の間違いを訂正してゆく。実際に、彼女は<人類未踏産物>という特別な存在なのだが、あくまでものであり、道具である。このあたりの説明や、彼女らが利用する、認識の錯覚を利用した意識誘導法「アナログハック」の説明は文量が膨大になるため省くが、この二人の奇妙な関係が、物語のミソになっている。

以下、読後の考察になるのでネタバレ注意です。(あくまで上巻時点での推測なので正しいとは限りません)

ちょっと整理したいのが、彼女ら5機の存在理由と、その目的だ。
 
それぞれの機体には<「人類を拡張する機能」としての道具>といった、道具そのものが果たす機能の根本的なものが、一つずつ設計コンセプトとして定義されている。これらを作ったのは超高度AIなのだが、このAIを持つミームフレーム社において、ただ一人自らの意思で(これは人よりも優れた超高度AIの判断ではなく、という意味)超高度AIを使って物を作った人物がいる、という描写がある。この人物がアラトの父なのだが、この時作ったモノこそが、彼女たちなのではないかと考えている。
 
遠藤博士は、作中でつくばの旧学園都市で人間役hIEとhIEによって大規模な社会シュミレーションを行っている。これのnextステップが、レイシア達5機の<人類未踏産物>が野に放たれたことによってある今の状態。目的は、先の技術の産物である彼女たちを道具として使った、人類の人としてのステップアップ、あるいは今の社会問題であるhIEに対する偏見の払しょく(仕事を奪われたことによるもの、など)。テーマが新世代における、ヒトとモノの関係であること。博士がどうやら初めからレイシアのことを知っている様子だったこと。黒幕と思しき人物が死んだこと。これらの理由から、黒幕を博士に仮定して、目的を想像してみた。

目的について。5機のうち、3機については序盤で設計コンセプトが明かされるのだが、レイシアを含む2機については明かされていない。このうち、描写の多いレイシアに対する推測。レイシアの設計コンセプトは、<道具に対する信用>にかかわる何か。始まりの夜(そういえばFateの出会いシーンも月の夜だった)レイシアがアラトにかけた言葉が一つ。そしてレイシアの言動をみていると、オーナーの信用を得ることが目的なのではないかという気がしてくる。
アラトに対するアナログハックもそうだが、最たるものとして、どうもレイシアは事件を予見・予測・対処しながらも、それらの情報をもとに行う対処を事後的なものにしているような気がする。誘拐事件も、機体ナンバーの件も、アラトを誘導して、じぶんを信用させるためにコントロールしているように思うのだ。・・・まあ、これが邪推であったとき、俺はレイシアに土下座するしかないのだが。何しろ俺は、彼女のアナログハックの影響下にあるのだから!

最後になったが、この本、とても面白い。ゲームのニーアオートマタと比較してみたりしながら楽しく読んでいる。図書館の魔女に続き、この本もこの時点で殿堂入り確定である。今度は・・・そうだな、六畳間五言絶句という所か