続・六畳間奮闘記

男には自分の世界がある。例えるなら空をかける、ひとすじの流れ星

書評「アルスラーン戦記」

 アルスラーン戦記」、それは全16巻に及ぶ長編小説であり、パルスという架空の王国を記した、まぎれもない一つの歴史書でもある。敗北から始まった、アルスラーンという王太子の半生をつづる、壮大な物語である。

 作中において、アルスラーンは、数え切れないほどの出会いと別れを経験する。それは偶然と必然が絡み合う、複雑な人の世の営みである。本書はそれを、一つ一つ描き、書き出してゆく。これは、三国志に通ずるものがあるだろう。

 アルスラーン戦記では、前半で国の興りを、後半で滅亡を描いているように思える。と言うのも、前半でアルスラーンのもとに優秀な仲間が集まり、後半巻を追うにつれ、一人、また一人といなくなっていくからである。特に最終巻付近で大敵とまみえたときの絶望感はすさまじく、状況は最悪、まさかこいつが!という人物も次々と死んで行ってしまう。自分が「こいつには幸せになってほしい」と思った人物も、ようやく幸せをつかんだ人物も、次々と、である。結末は、決して幸せなものではない。しかし、だからと言って不幸でもなかった。これは、登場人物たちがそれぞれの想いを胸に生き抜いた、その記録なのだから。

 惜しむらくは、自分がヒロインだと思っていた人物がアルスラーンと共に幸せになってくれなかったことだ。自分はアニメからアルスラーン戦記に入ったのだが、いつ彼女とアルスラーンとくっつくのか、それをとても楽しみにしていたのだ!。これが、これだけが作者である田中芳樹さんへの唯一の不満なのである。

 今思えば、とても長い旅をしてきたように思う。いや、実際は本を読んでいただけなのであるが・・・。本を読んでいるだけで、一つの時代を見届けたような気分になれる。これが、戦記物の小説の醍醐味というべきものだろう。アルスラーン戦記はそんな気分にさせてくれる、とても良い読み物だった。