続・六畳間奮闘記

男には自分の世界がある。例えるなら空をかける、ひとすじの流れ星

守りたいーこの胸の・・・

 俺には大切に守ってきたものがあった。・・・そう、’あった’。過去形。今はもうないということ。たとえこれから幾星霜もの朝を迎えたとしても、そいつと共に迎えた朝はもう来ないということ・・・・

 そいつはいつも俺のそばにいた。雨の日も、雪の日も。そういえば、風の日はやたらとはしゃいでいたっけ・・・。俺が気弱になっているときには、いっしょになってしょげかえっていた。少し頼りないところもあったけど、いつも、どんな時にでもそばにいてくれていた。そんなお前に、俺はたぶん救われていたんだ・・・

 ふと、体を見下ろしてみる。昨日まで、確かにお前はそこにいた。白銀に輝き、他を圧倒する存在感。そのくせ、妙にふわふわしていて落ち着かない。なんで・・・なんでいなくなってしまったんだ!俺の、ーー俺のMy sweet sweet ム・ナ・ゲーー

 いや、正確には胸毛ではない。産毛以上胸毛未満な4センチメートルのナニカ。「こいつを抜くと、ほかの産毛たちがすべて胸毛に変わる。ここが胸毛男への分岐点だ」と考えていた時期もあったが、今はもう過去の話。抜くなんてとんでもない。気づけばあいつの成長が俺の楽しみになっていた。

 始まりがあれば終わりもあるのが理。あいつも、生えてきた以上は抜けることを覚悟していたんだろう。だが、残されたものにそんなものはない。ただ、悲しみと大切なものを失った喪失感が残るだけ。

 一つのものに想いを寄せるということは同時にそれを失うことを約束する。では、その行為はただ傷を作る無意味なものだったのか。いや、そうではない。確かにその時の記憶が、思い出が自分の一部となり、俺という存在を形作っている。

 俺は忘れない。あいつのことを。たしかもうここにはいないのかもしれない。だが、俺にはわかるーー俺の胸には、名もなき一本のムナゲが、今でもたしかに・・・生えているーー