続・六畳間奮闘記

男には自分の世界がある。例えるなら空をかける、ひとすじの流れ星

書評 「図書館の魔女 第一部」

この「図書館の魔女」は、一昨日に平積みされている本の中から見つけたものです。自分はよく表紙買いをするのですが、この本も例にもれず表紙を見て、ざっと読んで、購入を決意しました。本との出会いは一期一会。いい本と出合うとなんだか晴れやかな気分になります。これだから読書はやめられません(笑)

ーこの本を読んでみてまず感じたのは、文章が楽しい、ということです。別に特別ユーモアを利かしているだとか物語の先が気になるというたぐいの楽しさではなく、言葉による楽しさ…というのでしょうか。普段触れる機会のない単語が生き生きと随所にちりばめられていて、その文体を追っていくだけで知的好奇心が刺激されて楽しめます。まるで、言葉遊びをしているかのような一場面(図書館とは何かを説明するのですが、これがとても面白く、お気に入りです)もあり、ついニヤニヤしてしまいました。

 そしてこのような「言葉」を操り、人を操るのが本作の主人公ともいうべき存在。図書館の魔女と畏れられ、敬われている、マツリカです。マツリカは唖者で、普段は手話を用いてもう一人の主人公であるキリヒトをはじめとした登場人物と会話をします。この手話会話の描写も想像力が掻き立てられて好きなのですが、もう一つ、とくに好きなシーンがあるのでそちらの感想を語らせてもらいます。
 マツリカには不満がありました。自分の好きな詩を手話の特性上、詩人が吟じるように表現し、人に伝えられないことです。手話には手話の、実に豊かな表現方法があるのですが、それは空間的な広がりを持つもので、時間的なものではありません。そこで、触覚を用いた新しい記号法を作り、キリヒトにそれを教え込んで自分の声の代わりになってもらおうと思い立ちます。ここのところが特に好きなのですが・・・このシーンは、なんというか、とても美しかったです。互いに触れ合いながら、声はなく(実際はあるのですが、ないも同然です)、しかしそれ以上に通じ合っているように感じさせる、’何か’。キリヒトと、キリヒトの手に指を曲げたり伸ばしたり握ったりして、新しい、二人だけの「言葉」を教えているマツリカ。本書の中に、言葉について語られた部分があるのですが、そこのところが思い返されて、純粋に綺麗だなと思いました。

 この本の第一印象はゴシックシリーズやダンタリアンの書架に似ているな、というものでしたが、全く違います。魔女とつきますが魔法はなく、ミステリ色も皆無です。ただ、面白いという点では共通しています。購入を迷っている人がいたらぜひ。新しい読書体験ができること間違いなしです。(たぶん)

さて、駄文を長々と書き連ねても伝わることも少ないと思うのでこれくらいにしておきます。この図書館の魔女は、まだ一部を読んだだけですが自分が大好きな図書リストに入りそうな気がしています。(ちなみに、獣の奏者精霊の守り人、鹿の王、円環少女、神は沈黙せず、です。上橋成分が強いのはご愛嬌)また次の巻を読み終わったら感想をここに残していこうと思ってます。